松永宗憲 元エンジニア農家のトマト作り


3 月 6 日に開催された「Farm to Table / Table to Farm #1」に登壇した有機ト マト農家の松永宗憲さんにインタビューを行いました。松永さんは、会社員か ら農家に転向し、飛騨で Taihiban のオリジナル堆肥を使ってトマトを育ててい ます。自然派の栽培方法も取り入れつつ、一方では土壌分析などのテクノロジ ーを積極的に取り入れながら行うという、松永さんならではの農業のあり方に ついて伺いました。

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■慣行農法に対する疑問から有機農業へ
―会社員から農家に転向された経緯を教えてください。

大学卒業後は輸送機器の会社に勤めていました。ただ、会社の風潮もあっても ともと 30 歳を契機に何か生活は変えたいと考えていました。そうしたらちょう ど 30 歳のときにリーマンショックが起こったんです。それで退社し、今後のこ とを考える中で祖父が住む飛騨は農業がさかんなのを見て、農業を始めようと 決意しました。岐阜県がやっていた無料の農業講座で 4 ヶ月間農業の勉強をし て、そのまま飛騨に移住しました。

講座を受けたあと、地元のトマト農家さんの元で1年間トマトの作り方を学び ました。慣行栽培の農家さんなので当然農薬を使う作り方でした。ただその中 で「こんなに薬をまかないとダメなのかな」という疑問があったんです。その 後、自分で農業を始めたときも最初の1年間は農薬を使っていたんですが、や っぱり自分で農薬をまいた日の夜は体調が悪くなるんですよ。だから2年目か らは農薬も化成肥料もやめました。

また、ちょうどそのときに Taihiban の方が飛騨にいらしていて Taihiban の堆肥を使ってくれる農家を探していました。近所の若い農家さんが使い始めてい たこともあって面白そうだと思い、私も取り入れてみることにしました。堆肥 のにおいが本当にないのには驚きましたね。堆肥を作っている方の牛舎にも行 きましたがすごく清潔で牛もおっとりしていてこれはいいと思いました。トマ トの味もよくなりました。現在は2反の畑で7種類のトマトを栽培しています。

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■おいしいものを作るためのテクノロジー

―農地の土壌分析もされているそうですね。

はい、毎年近所の農家の人たちと一緒に土壌分析を依頼し、土の状態を確かめ ています。去年は土の中の微生物の活性値を測りました。微生物の数を数える のは難しくてできないのですが、どんな多様性があるかは調べられるんです。

その結果、4人の農家のうち、僕ともう1人の Taihiban の堆肥を使っている農 家は他の 2 人の農家に比べて微生物の量が倍くらいあったんです。土の中のミ ネラルや窒素分の状態も年々よくなってきています。Taihiban の堆肥がやはり いいものだということをデータとして知ることができました。今後は抗酸化力 も測れたら面白いと思っています。

―最近はデンソーとも協働して新しい取組みを始められたとか。

昨年、ロフトワークの皆さんと一緒に飛騨にデンソーの方がいらしたときに知 り合い、デンソーのカメラを使って農業分野で新しいことをやろうと模索して いるので協力してほしいとの依頼がありました。もともと自分自身も大学では 機械工学を学んでおり、そういったことは好きな分野だったので快諾しました。

デンソーのカメラを農地に設置して、トマトが小さいころから実がなって収穫 する段階までを定点観測します。定点観測することで、温度など他のデータと ひも付けし、トマトの育ち方を分析するのに役立てたいということでした。今 年から本格的にカメラを設置し始める予定です。

―今後、農業分野でのテクノロジーやサイエンスの活用はどのように考えていますか?

やっぱりおいしいものつくるためにテクノロジーがあるんだと思います。分析 や研究を通じて、様々なデータが今後分かるようになっていけばと期待してい ます。それによって僕らの農業のやり方が変わっていき、よりおいしいものを 作れるのだったらそれはいいことだと思います。今後も積極的にテクノロジー の力は取り入れていきたいです。

結局、有機農産物だから全てがいいとはぼくも思ってなくて。「おいしい」とい うのはやっぱり感覚じゃないですか。そこをテクノロジーの力も使いながら追 求したいと考えています。

それから、何十年も農業をやってらっしゃる方の経験値に基づく「カン」には どうしても勝てません。聞いてみても感覚値なのでよくわかりませんし。それ で、何か数値的に見えるものがほしいというのもあります。

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■デザインにもこだわり

―長九郎農園のWebサイトもこだわって作っていらしゃいますね

ホームページは僕の友人が独立したときに、最初の仕事として制作してくれま した。また、農園のリーフレットも作ってもらっています。

やっぱり同じ商品でも、かっこいいものの方がパッと目につくのでいいと思う んですよね。妻もよく言いますが、消費者の方々は「かっこいいものを買って いる」という状況に気持ちが盛り上がる部分もあるのではないかと思います。 自分もそうですし。デザインを整えることで、そういう「体験」も買ってもら えるといいなと思います。

■異業種と積極的に関わって新しいことを
―今後目指していきたい方向性はどのようなものですか?

農業をやりつつも、いろんな業種と方と交流してまた違う発展ができたらいい なと思っています。田舎にずっといると同じ人としか交流しなくなっていきが ちですが、積極的に新しい情報を取り入れて様々な人と関わりながら、新しい ことができたらと考えています。

よく世の中では「顔の見える生産者」という言葉があるじゃないですか。でも 私たち生産者も消費者の顔を見たいと思うんですよ。そうすると反応がもらえ て、それがまたモチベーションになりますから。今後は、消費者の方と顔をあ わせられるような収穫体験ツアーなどもやっていきたいですね。

m-pro【プロフィール】
松永宗憲/有機トマト農家 愛知県名古屋市生まれ。静岡県内の輸送機器会社を退職後、農業の道へ。祖父 の地縁から岐阜県飛騨市に移住し、長九郎農園としてトマト農家をスタート。 Taihiban の堆肥を使い、土壌分析などのテクノロジーを取り入れながら現在7 種類のトマトを栽培している。

http://www.choukuroufarm.com/