水口拓也(山角や) おむすびで結ぶ人の縁


4月24日に開催された「Farm to Table / Table to Farm #2」に登壇した出張専門・オーダーメイドのおむすび屋「山角や」の水口拓也さんにインタビューを行いました。「山角や」はデザインや映像、音楽系の仕事を持つメンバーからなる、ユニークなメニューが揃うおむすび屋。本業をもちながら食の取組みを行うことで得られる気づきやその効果について伺いました。

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■自然な形で始まった「山角や」

―「山角や」はいつから、どのようなきっかけで始まったのですか?

活動は2012年から始めました。東日本大震災が起こったころ、僕もメンバーも今の仕事をやりながら、なんとなくこのままでいいのかな、ということを見つめ直していた時期でした。僕は普段グラフィックデザインの仕事をしているのですが、もう少し自分の身の回りに近いことを仕事にしたいなと思っていたんです。例えば、衣食住に関わるようなことですね。

もともと僕の父方の田舎が石川県の加賀市清水町で米農家を営んでいて、麺や豆腐などの水を使った加工食品も作っていました。だから子どもの頃から本当にごはんやおむすびが好きで、おむすびをむすんで会社に持って行っていたんです。それで徐々に仕事関係の人たちにもむすんであげるようになり、相手が喜ぶ姿を見て嬉しく感じていました。そんな中、今の山角やメンバーの山形と宮本と出会いました。

彼らは映像系の会社に勤めていて、撮影現場で大人数のごはんを炊いて食事を作っており、そのための道具も持っていたんです。そこで、彼らにごはんを炊いてもらい、自分がおむすびをむすぶという形で何か一緒にできたらおもしろいんじゃないかとチームを組むことに。こうして、「山角や」の活動が始まりました。

メンバーは現在4人。それぞれ映像系や音楽系の業界で仕事をしています。山角やの活動は本業の仕事のかたわら出張やケータリング、ワークショップなどを行っています。

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■「おむすび」という言葉で意識が変わった

実は最初は「おにぎり屋」と名乗っていたんです。でも、まわりの人に「“おむすび”の方が活動に合っているんじゃないか」と言われて2年ほど前から変えました。するとだんだん自分としても「むすぶ」ことを意識するようになってきたんです。

単にごはんを作るだけではなくて、自分たちが楽しんでないとお客さんも楽しめないなとか、周りのことをすごく意識するようになりました。イベントでも何か次につながるものがあるとか、また次の新しい場所や人につなげるというふうに、言葉を変えることによって自然に「むすぶ」とか「つながる」方向に意識が変わったと思います。

つい最近、神主さんから伺ったのですが「左手と右手があわさることでエネルギーが生まれる」という考え方が日本には古来からあるのだそうです。それを「むすひの神」と言うそうで、これはおむすびならではの考え方だなと感じました。

―食を囲むことって「人をむすぶ」効果が大きいと思いますか?

そうですね。今日もワークショップをしていて、僕が食材を前に最初話しているときはみんなじっと聞いている感じでしたが、みんながおむすびをむすび始めた途端に一気に空気がやわらかくなって。あれは不思議ですよね。一回みんなで食事を囲むと意見もいろいろ出てくるし、質問もけっこう出てきましたしね。

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■顔が見える関係を大切にする

―「山角や」をやる上で大切にしていることは何ですか?

いつ、誰が、どこで作っているのかというのを分かるようにすることですね。それから、できたてを温かい状態で食べてもらうということ。食材の産地をメニューに書いたり、誰が炊いて誰がむすんでいるのかも分かるように、調理をオープンな形にしてやっています。僕らから見ても食べる人の顔が見えて、その人のためにむすぶ、ということを大切にしています。

―Webサイトを見ると多種多様なおむすびが紹介されていますが、どのように新しい味をつくっているのですか?

主催者からの要望や、お客さんの声から生まれることもけっこう多いです。このあいだは「甘いおむすびはできませんか?」という要望がありました。いろいろ考えるのは面白かったです。結局、ピーナッツバターを豚肉と一緒に炒めて、味噌とラー油を絡めてピリ辛ピーナッツバター味噌というのを作りました。

また、お客さんの声から新しい味が生まれることもあります。「明太子とパクチー」の組み合わせは、まさにそうで、パクチー好きのお客さんからのオーダーで作りました。そこにさらにシラスを入れて、「明太子とシラスとパクチー」のおむすびができあがりました。具材の入れ方や分量によって味が大きく変わるので、試作はたくさんしています。

食材は出店したマルシェで知り合った方や、そこから紹介しもらった方々から仕入れています。おむすびに使っているお米屋さん、海苔屋さん、塩屋さんもそうでした。人との出会いから、自然な流れで集まってきた感じです。

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■デザインの仕事とおむすびの仕事

―普段のデザインの仕事と山角やの活動のバランスはどのようにとらえていますか?

クライアントの依頼を受けてつくる「デザイン」と、目の前の人のためにおむすびを作る「山角や」は、 全く違うことをやっているように見えるようですが、実は共通点がいくつもあると思っています。

例えば「必要とされるものを必要な場所に提供する」という意味では、おむすびもデサインの仕事も同じだととらえています。テザインの仕事ではモノづくりの現場に近い立ち位置でやっていて、 山角やの仕事ではどうやってモノを提供するかという、食べてもらうお客さんに近いところにいます。それによって、モノを作る側、モノを受け取る側両方の気持ちがよくわかるし、それを互いの仕事に生かしています。

これからも、必要とされているところへ行っておむすびをむすび、お客さんの声に答えていきたいです。

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水口拓也

出張専門、オーダーメイドのおむすび屋。

出張先でお寿司屋さんのようにネタを並べ、一つ一つ丁寧にむすぶ。日本各地の食材をアレンジして日本人のソウルフード「おむすび」の新しい魅力を提案するべく、ケータリングやワークショップ、メニュー提案、商品開発などを行う。メンバーグラフィックデザイン、映像をはじめとしたクリエーティブチームで構成。
http://sankakuomusubi.jp/