2016年3月6日に開催したイベント「Farm to Table / Table to Farm #1」で、農家メシを作ってくれた「Taihiban(タイヒバン)」の森本桃世さん。特殊な乳酸菌を食べた家畜の糞から作ったオリジナルの堆肥で育てた野菜を楽しめるレストラン「Taihiban」で、シェフを務める森本さんに、素材の美味しさを生かした料理を通じて”身体の感覚を呼び覚ます”大切さについてお話しを伺いました。
■みんなのお母さんとは
―森本さんは「みんなのお母さん」という肩書きでTaihibanでシェフをされていますが、元々自然志向だったのですか。
森本)いえ、元々はパティシエの仕事を10年間していたのですが、激務で身体を壊してしまったんです。1日16時間ぐらい働いていて、朝からお菓子を食べることも多く、食生活も不摂生でした。そのような生活を続けたいたところ、心と体の病気を発症してしまいました。しかし、食生活を改善する余裕もなく、相変わらず、お菓子中心の食生活を続けながら、薬を飲むという負のループに陥っていました。
お店を辞めた後、Taihibanのスタッフとして働くことになり、薬をやめて断食を始めました。身体に溜まってしまった悪いものを出し、Taihibanで使っているオーガニック食材を食べるようにしたら体調が良くなっていったんです。薬を飲まなくても大丈夫になったし、病気も治っていきました。断食を重ねることでデトックスし、身体に入れる食の大切さを実感しましたね。
この経験から、過去の私のように元々あまり食事にこだわっていない人にこそ、「身体の状態は食で変えられる」という意識をもってほしいと思い、今の活動を始めたんです。お母さんのように、みんなの食生活に気を配ろうという思いで、「みんなのお母さん」と名乗っています。
■脳主体より、身体主体に
―お母さんというと、子どもの身体を常に気遣ってくれる存在というイメージがあります。
森本)身体のことってなかなか普段から意識することが少ないじゃないですか。だから、Taihibanに食べに来てくれたお客さんとはそういう話もします。だいたい顔を見ればその人の身体が冷えているかどうか分かるので、「冷え性ですか?」と話しかけたり。
今後は、その人の身体の状態に合ったものを出してあげるという、個人的な対応ができるレストランを目指したいです。女性だけじゃなくて男性や子どもに対しても、みんなのお母さん的な存在として、率先しておせっかいをやきたいですね。
―現代人の身体の不調って、生活の忙しさも関係しているような気がします。そんな状態でも食生活を変えることは大きく影響しますか?
森本)もちろん、食生活も大事ですが、それだけではありません。結局は「自分が何を優先しているか、自分を大事にしているかどうか」だと思うんです。そういう忙しい人って自分の身体を見てない人が多いです。自分の身体よりも、やりがいや、仕事といった部分が優先されがちで、「頭」で動いていることが多いように見えます。
食を変えることが重要なのではなく、まずは自分を大事にすることが大切なんです。自分の身体を大事にすれば、そこから生まれる命も、他者の命も大事にできるんじゃないかと思います。
おいしい料理は身体の感覚を呼び覚ましてくれます。私の料理を食べて「ああ、ちょっと自分を大事にしよう」と思ってくれたら本望ですね。脳で考えるより、身体感覚で自分の状態を感じ取ってほしいです。
■野菜のお母さんとして素材を生かす
―Taihibanの料理は野菜の味をしっかり感じられますよね。野菜を調理するときに大切にしていることは何ですか。
森本)農家さんとのやりとりの中で、私は「野菜のお母さん」でもあるなと感じています。ちゃんと愛情をかけて育てられた野菜だからこそ、「無駄を出さずに料理してあげよう」と思うんです。また、農家さん自身が経済的に食べていけるようにきちんと出口を確保したいので、野菜の宣伝や営業をすることも。そういう意味でも愛情をかけています。
Taihibanの堆肥は、農家さん自身が自分の農業を追求していくために役立ててもらえたら嬉しいです。例えば、堆肥できのこの栽培をしようとしている方や、堆肥だけではなく微生物を増やして土を強くしながら農業をやっている方がいて、みんなとても研究熱心なんです。真摯に農業に向き合う農家さんを支援するという意味もあって、Taihibanの食材の仕入れ先を選んでいます。
■本当においしい野菜なら子どもも好きになる
―最近では野菜を食べられないお子さんが増えているようですが、どう思いますか?
森本)子どもって素直で味覚が敏感なので、単純においしくない野菜だから食べないんだと思います。一方で、農家さんの子どもに好物を聞くと「枝豆!」という答えが返ってきたりします。それって単純に新鮮でおいしい野菜を食べているからなんですよね。ですから、本当においしい野菜に出会えれば野菜好きになってくれるんじゃないかと思います。
Taihibanでは近所の保育園の子どもたちに向けて、たくわん作りのワークショップを行っています。材料はぬかや大根など本当に必要なものだけのシンプルな作り方。すると、今までたくわん嫌いだった子がすごくたくわん好きになるんです。やはり自分で作ったたくわんは美味しいし、愛着もわきますからね。
それから、子どもが自分のうんちを見てみてってお母さんに言うそうなんです。「今日はこれを食べたから臭い」とか、「これを食べたから身体の調子がいい」ということが自分でわかるようになって子どもにとっては面白くなるんですよ。それって食べ物を選ぶことにつながります。すると、親は子どもが食べたいものを食べさせたいですから、親の意識も変わっていくんです。
普段の食についても「マクロビがいい」とか「ベジタリアンがいい」と周りで言われているからと頭で考えて取り入れるのではなく、自分の身体が何を欲しがっているか、何が合っているかを感じ取れる感覚を呼び覚ましてほしいですね。周囲に惑わされずに、「おいしい」と感じたり、「違うな」と自分で判断することの大切さを、食を通じて伝えていきたいです。
お店では丁寧につくられた野菜の美味しさを最大限に生かして、調味料も野菜から手作りするなどこだわっています。素材本来の味を堪能してもらって、自分の身体のスイッチをオンにしてもらえたら嬉しいです。
【プロフィール】
森本桃世/Taihiban(タイヒバン)シェフ、みんなのお母さん、料理家
“身体は食べ物でできている”をコンセプトに野菜の素材や発酵食品を活かし、手を加えず手間をかけ、みんなのお母さんとしてからだの喜ぶ料理を作る。現在は循環タイヒにまつわる食材を扱うオーガニックレストラン「Taihiban」を運営しながら、生産者に近い料理家として素材を楽しむ料理教室やイベントを行う。